心の声を解放する-思いを言葉にできない自分との向き合い方(上)

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⬜︎目次⬜︎

  1. 1章 なぜ私たちは本音を言えなくなるのか
  2. 2章 「言えない」が引き起こす心と体への影響
  3. 3章 本音を伝える勇気を育むステップ


1章 なぜ私たちは本音を言えなくなるのか

私たちの日常生活を振り返ると、思っていることをそのまま口にできない瞬間が数多くあります。職場で上司の意見に違和感を感じていても黙っていたり、友人の誘いを断りたいのに「行く」と答えてしまったり。こうした自己抑制の背景には、複雑な社会的・心理的メカニズムが働いています。

日本社会では特に集団の調和を見出すことへの抵抗感が強く存在します。幼い頃から、「場の空気」を読むことや「他者の気持ち」に気付くことを重要だと教えられます。そして、他者との衝突を避けるため、自分の意見や感情を抑え込むことが美徳とされる風潮があります。集団から突出することへの警戒心が私たちの心に刻まれているのです。

このような社会・文化的要因に加え、個人的な心理的要因もあります。もっとも根本的な要因は「拒絶される怖れ」です。人間は社会的生物として、集団から排除されることを本能的に恐れています。「この発言をしたら嫌われるかもしれない」という不安が、自己表現に対する内的な検閲システムを作り出します。

過去に本音を言って否定された経験や傷ついた記憶も、この怖れを強化します。発言に対して、「間違っている」と強く批判されたり、意見を言ったために関係が変わってしまった経験があると、脳はそれを危険信号として記憶し、同様の状況では防衛的に黙ることを選びます。臆病さではなく、心の防衛機制なのです。

また、完璧主義的な傾向を持つ人は、「間違ったことを言ってはいけない」という思いから発言を控えることもあります。学業やキャリアで高い評価を得ることに慣れた人ほど、不確かなことを口にする抵抗感は強く、確信がないことには沈黙する立場をとることがあります。

感情表現に関する家庭環境や文化背景も影響します。「泣いてはいけない」「感情的になるのは弱さだ」という教えから、感情を素直に表現することへの罪悪感や抵抗感を持つ場合があります。

これらの社会的・心理的要因が複雑に絡み合い、私たちは「本当の自分」を押し隠し、周囲に合わせた「仮面」をかぶるようになります。短期的には人間関係を円滑に保つ適応戦略かもしれませんが、長期的には自分との乖離が生じていきます。

本音が言えない状態が続くと、やがて「本当の自分は何を考え、何を感じているのか」さえわからなくなる自己疎外の状態に陥ります。自分の内なる声に耳を傾け、それを適切に表現する能力を取り戻すことは、現代を生きる私たちの重要な課題と言えるでしょう。


2章 「言えない」が引き起こす心と体への影響

表面的な和を保つため、あるいは拒絶される怖れから本音を言わないでいることは、短期的には対人関係のトラブルを避ける方法となるかもしれません。しかし、このような自己抑制が習慣化すると、私たちの心と体にさまざまな影響を及ぼします。

感情は、表現されずとも消えてなくなるわけではありません。押さえ込まれた感情は、エネルギーとして体内に蓄積され、やがて予期せぬ形で表出します。日常的に穏やかな人がある日突然、些細なことで激しい怒りを爆発させる背景には、長年抑圧してきた感情が関係しています。こうした抑圧された側面を「影(シャドウ)」と呼ぶこともあり、無意識下で成長し、時に制御不能な形で表面化します。

また、感情の抑圧は免疫機能の低下に関連していると言われています。常に「本当の自分」を抑え込み、社会的期待に沿った自己を演じることは、体に慢性的なストレス状態をもたらします。このストレスが長期化すると、ストレスホルモンが継続的に分泌され、免疫細胞の働きを抑制します。その結果、体調不良や病の慢性化が起こりやすくなります。

心理面では、本音を言えない状態が続くと、うつ病や不安障害のリスクが高まることが知られています。自分の真の思いや感情を抑え込み続けることは、心理的な負担となり、「自分は理解されていない」「本当の自分は受け入れられない」という孤独感や疎外感を強めていきます。特に怒りの感情は、適切に表現されないと「自己否定」「無力感」として蓄積され、自尊心の低下や慢性的な落ち込みにつながることがあります。

身体症状として頭痛、肩こり、胃腸の不調、過敏性腸症候群、慢性疲労などが出てくる場合もあります。表現されない感情のエネルギーが体調の問題を引き起こすのです。顎や歯の不調は「言いたいことを言えないストレス」からくる場合もあると言われています。

対人関係においても、本音を言えないことは、関係性の質を低下させていきます。「大丈夫」と言いながら、内心では不満を抱えていると、相手は真のニーズを理解できず、誤解が積み重なっていきます。特にパートナーシップや親密な友人関係では小さな不満や意見の相違を「言わなくてもわかってほしい」と期待しながら抑え込むことで、爆発的な感情表現や関係の破綻につながることもあります。

最も深刻なのは、本音を抑え続けた結果、「本当の自分」との乖離が生じることです。「理想化された自己」と「本当の自己」の間に大きな隔たりが生じて、本当の自己が疎外されてしまうのです。この状態では、「自分は何を望み、何に喜びをを感じるのか」という基本的な自己理解さえ困難になります。外からは「完璧に機能している」ように見えて、内面では「何のために生きているのか」という空虚感や喪失感に悩まされています。

表面的には多くの人間関係を持ちながらも、「誰も自分のことを知らない」という孤独感が生じます。これも、本音を言えない状態の副産物です。SNSでたくさんの人と繋がっても、本当の気持ちを話せる相手がいないというのも、現代特有の孤独と言えるでしょう。

このように言えないことの影響は多岐にわたります。適切な形で自分の思いを表現することは、単なるコミュニケーションスキルの問題ではなく、健康で充実した人生を送るための重要な要素と言えるでしょう。


3章 本音を伝える勇気を育むステップ

私たちの多くは幼い頃から「空気を読む」「他者と仲良くする」ことの大切さを学び、本音を抑え込む習慣が身についています。こうした長年の習慣を変えるのは容易ではありませんが、段階的なアプローチで自分の思いを伝える勇気と能力を育むことは可能です。本音を伝える力を取り戻す道のりは、自分との誠実な関係を構築する旅でもあるのです。

重要なのは、自分が何を感じているのかを正確に認識することです。多くの人は日々の忙しさや周囲の期待に応えることに集中し、自分の内なる声に耳を傾ける習慣を失っています。例えば、友人からの誘いに「行きたくない」と思いながら、「行く」と反応的に答えてしまうことがあります。自分の感情を認識する能力を高める必要があります。

感情の記録を取ることは、具体的な一つの方法です。1日の終わりに、今日感じた感情を書き出し、自分の感情パターンを確認します。感じやすいものから始めて、複雑なものにも目を向けていきます。言いたかったけど、言えなかったことを記録することも、自分のパターンに気づくきっかけになります。

感情と身体感覚は密接に結びついています。例えば、怒りは胸が熱くなる、不安は胸がザワザワするなど、さまざまな身体感覚があります。身体感覚の変化に注目することで、感情が生じていることに気づくこともできます。

自分の感情を認識できたら、本音を表現する練習をします。安全な環境で、内容を否定する可能性の低い相手から、本音を伝えます。自分の好みを伝えるのも、安全で実践しやすい方法です。こうした小さな実践を繰り返すことで、重要な場面での意見表明に自信が持てるようになります。直接話せる相手がいない場合は、文章にして書いてみるのも一つの方法です。

本音を言えない最大の障壁は、「拒絶への怖れ」です。この怖れに対処するための心理的アプローチも重要です。「本音を言ったら、どんなことが起こりうるか」という怖れを具体的に書き出し、それが起こる確率と対処法を考えると、少しずつ怖れに耐性がついてきます。

私たちにはさまざまな思考の歪みがあり、「反対意見を言ったら関係が壊れる」「完璧でない発言はしてはならない」など、極端な思い込みを持っている場合があります。反対意見を言うことで、より建設的な提案に至るための発言もありますし、たくさんの未完成の意見が必要な場面もあります。状況に応じて、柔軟な態度を取れるように心がけましょう。

長期的には、他者からの承認や評価ではなく、自分の価値観や判断を信頼する自己価値感を育むことが本音を語る土台となります。

本音を伝える勇気を育むのは、単なるコミュニケーションスキルの習得ではなく、自分との関係を見直し、怖れや不安と向き合う自己成長のプロセスです。失敗や挫折を怖れず、少しずつ成長することが重要です。本音を伝えることは、「相手を傷つける」ことではなく、互いの理解を深め、誠実で豊かな関係を築くための第一歩だという認識を持ちましょう。

お読みいただきありがとうございました。(下)に続きます。

山田 結子

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